掛詞は、一つの音に二つの意味を重ねる古典和歌の表現です。少ない音数の中で、景色と気持ちを同時に動かせるところが面白いんです。
単に同音異義語を見つければよいのではありません。大事なのは、二つの意味がどちらも一首の内容につながっているかです。
「立ち別れ」の歌にある掛詞

中納言行平の歌です。
立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
この歌には、「いなば」と「まつ」の二つの掛詞があります。
「いなば」の二つの意味
- 往なば:立ち去るならば
- 因幡:地名。因幡の山
「まつ」の二つの意味
- 松:山の峰に生える木
- 待つ:相手が帰りを待つ
「立ち別れ、因幡へ行くことになっても、峰に生える松のように、あなたが私を待っていると聞いたなら、すぐに帰ってこよう」という内容です。地名と動作、植物と気持ちが、一つの音で重なっています。旅立つ寂しさと、待っていてほしい願いが、一首の中で離れずにつながります。
前後に二本のつながりがあるか
掛詞を探すときは、一つの音から二つの語を考え、それぞれがどの言葉につながるかを線で結ぶように読みます。
「いなば」なら、「立ち別れ」からは「往なば」が自然です。一方、あとの「山」には地名の「因幡」がつながります。
「まつ」なら、前の「峰に生ふる」からは木の「松」が自然です。あとの「とし聞かば/今帰り来む」からは、帰りを「待つ」が自然です。
二つの意味のうち、片方が前後の内容につながらないなら、たまたま同じ音の言葉を思い付いただけかもしれません。
同音異義語があれば、すべて掛詞?
文章の中に「橋」と「箸」が別々に出てきても、それだけでは掛詞ではありません。一つの表現を、二つの意味で同時に読めることが必要です。
また、現代のだじゃれは、音の同じ語を使って笑いを作ることが中心です。掛詞も音の重なりを使いますが、和歌では二つの景色や気持ちを少ない音数の中で結び付けます。働きは作品によって異なります。
現代語訳では、二つの意味を残す
掛詞を一つの意味だけで訳すと、もう一方のつながりが消えてしまいます。現代語訳では、本文を自然に訳したあと、「『まつ』には『松』と『待つ』が掛けられている」のように補足すると分かりやすくなります。
効果を書くときも、「二つの意味がある」だけでは少しもったいないです。先ほどの歌なら、遠く離れる旅の景色に、待っていてほしい願いを重ねています。別れの寂しさと、きっと帰るという希望が同時に残る歌です。
掛詞では、音は一つでも、意味のつながりが二本あります。それぞれの意味が前後のどの言葉につながるかまで見ると、偶然の同音異義語と区別できます。
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カテゴリ4|読み方・書き方(記事39〜46)
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